歯が1本抜けてしまったけれど、他人からは見えにくい位置にあるし、このままにしておいてもいいかな――そう考えて、抜けた歯をそのままにしている人が少なくありません。
確かに、1本歯を失ったくらいでは食べるときにもさほど不自由しませんし、問題がないように思ってしまいます。
歯が抜けてしまったあとの治療に抵抗感があるかもしれません。入れ歯にするのも面倒だし、保険適用外の治療法で高額なお金をかけるのも嫌だしと考えているうちに、いつの間にか時間がたっていたという人も多いでしょう。
しかし実は、そのたった1本の歯が、身体に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。すぐ目に見えるかたちではないかもしれませんが、時間をかけて少しずつ、大きなトラブルを引き起こすかもしれません。
歯には、その1本1本に大切な役割があります。それら1本1本がそれぞれの機能を果たすことで、口腔全体が機能するようになっています。たった1本、されど1本。失ってしまった1本が原因で、お口の機能のバランスが崩れてしまうことがあるのです。ここでは、歯を失うことで身体にどのような影響があるのかを説明していきましょう。
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1.噛み合わせのバランスが崩れる
何らかの理由で失ってしまった歯が、1本だけでなく、複数本になる場合は、食べ物をうまく噛むことができなくなります。
どちらか一方の歯でばかり噛むという片噛みの状態になると、噛み合わせのバランスも徐々に崩れてくるでしょう。
こうしたバランスの崩れが、歯の周りの組織にダメージを与えて歯周病になりやくなったり、顎の動きに影響を与えて顎関節症につながる可能性もあります。さらに、噛み合わせのズレが負の連鎖を生み、歯をどんどん失うきっかけになるかもしれません。
2.残った健康な歯にもダメージを与える
歯を失ってしまったとき、すぐに治療をすれば残った歯を大切に維持できたかもしれませんが、放置してしまったがゆえに、残りの歯をも失ってしまいかねません。
歯は、隣に生えている歯が動かないように支える役割を担っています。1本でも歯が抜ければ、その歯に支えられていた両隣の歯は支えを失い、歯がなくなってできた空間に徐々に動いたり、倒れやすくなります。
また、これをそのまま長期間、放置しておくとさらに横の歯も同じように傾いてきます。
また、抜けた歯と噛み合わさっていた歯が、噛み合うことで受けていた刺激を求めて伸び、歯が抜けて空いた空間にまで入り込むことがあります。歯が伸びるというのは、歯の長さが長くなるからではありません。骨の中に埋まっていた部分が出てくるからです。根っこから伸びた歯をもとに戻すためにはかなり難しい治療を受けなければなりません。身体への負担も大きなものになるでしょう。
さらに、抜けた歯の周囲にあった歯が伸びてきた歯の影響で曲がってしまう、残った健康な歯に余分な力をかけてしまうなど、1本の歯を失うことが他の歯の寿命を縮めてしまう可能性があるのです。
3.口元の審美性の問題につながる
普段、人の歯にさほど関心がない人でも、その人のお口の中に歯がないところがあると気がつくと何かしらの違和感があるものです。
歯並びや白さもさることながら、歯の有無は口元の審美性に大きな影響を及ぼします。見た目が悪いのはもちろん、第一印象の良し悪しも異なるものになるでしょう。
女性にとってはもちろん、サービス業や営業職など、多くの人と会うお仕事をしている人にも深刻な問題になるはずです。また、歯がないのを気にするあまり、大きく口を開けて笑えない、人とあまりコミュニケーションをとりたくないといった状態にも陥りかねません。
4.実年齢よりも老けて見える
奥歯などが抜けた状態を放置していると、顎の骨が痩せてしまったり歯茎が落ち込んだりする結果、顎のラインや頬のラインが内側によってしまい、顔貌が徐々に変化します。
前歯を失えば、口元にしわが増えるでしょう。さらに、噛みにくくなることで顔や首などの筋肉が衰え、たるみも増えてしまいます。
歯がないという問題が目に入らなかったとしても、顔のラインやしわ、たるみなどから、実年齢以上に老けて見える可能性があるのです。
5.食事をうまく咀嚼できず消化器官に負担をかける
歯が抜けてしまった状態を放置していると、噛み合わせが悪くなり、前歯に負担をかけるようになります。
これによって噛む力が低下し、硬いものを噛みにくくなるなどの問題が発生します。うまく食事を咀嚼できない状態が続くと、唾液が分泌されにくくなったり、胃腸で食べ物を消化しにくくなり、胃や腸の負担が増加することになります。消化不良の状態になり、食後に胃がむかむかするといった問題につながりかねません。
また、お口の中を浄化する働きのある唾液が不足することで、歯垢をうまく分解できず、歯周病になるリスクも高まるでしょう。さらに、口臭の原因なる可能性もあります。
6.脳への刺激が少なくなり、痴ほうの原因になる
噛む力が衰えたり噛み合わせがずれたりすると、脳への血流が低下してしまいます。脳への刺激が少なくなるため、集中力の低下、物忘れの多発といった問題が生まれ、痴ほうの原因もなるといわれています。
7.発音しづらくなる可能性がある
歯が抜けると、そのすき間から空気が抜けてしまい、発音しづらくなることがあります。上顎の前歯がない場合は特に、サ行、タ行、ハ行、マ行をはっきり発音しにくくなります。そのような話し方が気になるあまり、人とのコミュニケーションを避けてしまう人も少なくありません。
たった1本でも歯を失えば、残りの歯にも大きな影響が
歯を1本失ったからといって、すぐに大きな影響があるわけではありません。しかし、そのまま放置してしまうと、噛み合わせのバランスが崩れ、残った歯を失うなど機能面でのダメージがあったり、健康面の問題が発生する可能性もあります。
将来、健康で豊かな生活を送りたいと思うなら、歯の役割をしっかり認識し、その寿命をできるだけ伸ばすための工夫が必要です。歯を失ったあとの治療法の選択ももちろん大切ですが、歯を失ったままにしないということがまず重要なのです。